捨てる寸前だった30年前の羽毛布団。リフォームで生まれ変わることができるか診断してみた

こんにちは、店長です!

羽毛布団のお手入れ、メンテナンスについてのご相談を日本全国からいただくようになり、これまでさまざまな羽毛布団と対峙してきました。

品質・生産国・状態・使用年数は一枚ずつ異なります。お預かりする羽毛布団ごとにきちんと状況を調べながら「どのようなお手入れ方法が最適なのだろうか」、「羽毛の品質をもう一度回復させるための策があるだろうか」と考えを巡らせながらアイディアを構築していくのですが、お客様が抱く羽毛布団への想いをそこに乗せていくという作業が何よりも大事なんだと強く感じる瞬間があります。

購入から30年経過した羽毛布団の行末。

先日、群馬県にお住まいのお客様からお預かりした羽毛布団。羽毛布団をリフォームするか捨てるか、どのようにすれば良いか判断してほしいという依頼です。

はじめてのお問い合わせはメールからでした。

初めてご連絡いたします。

30年以上前に購入し、ここ10年程使用せずしまったままになっておりました羽毛布団についてご相談いたします。処分しようかと思いましたが、一度打ち直しが可能なものなのか確認したくご連絡申し上げました

もし可能であるのならサイズダウン(ダブル→シングル1枚)して使用したいと思います。処分した方が良いものかどうか、ご確認頂けると踏ん切りがつきます。

よろしくお願いいたします。

購入から30年以上が経過しているということですので、羽毛の劣化・保温性の低下は少なからず進行していることが予想されます。それがどこまで進んでいるのか。手遅れになる前なら良いのですが、ここ10年は使用せずに収納されていたということも気になります。もしずっと押し入れに仕舞い込んでいたとすれば換気がなされず湿気の多い環境に置かれていた可能性があるため、羽毛が硬くなってしまうことがあるからです。

ただ、メールでいただいた文面から想像するに、当店にご連絡いただくまでお客様は相当に悩んでいらっしゃったのではないかなと感じました。ヘタリも感じるけれど簡単には捨てられない、だけどここから直せるのかは分からない不安、そんなお気持ちがひしひしと伝わってきます。捨てるって言うのは簡単だけど、なかなか実行するのは難しいですよね。

もしお直しできるならサイズを変えてまた活躍してほしい。そう思えるのはこの羽毛布団がすごく大好きで、お客様の思い出がたくさんつまった大切なお品物なのだろうなと思います。

このお気持ちを形にしてお客様のお力になりたい、という使命感に駆られながら返信メールをお送りいたしました。

そうして何度かやりとりを重ねながらお預かりした羽毛布団がこちら。

群馬県からこちら愛媛県に羽毛布団をお送りいただくため、布団を入れる袋とクロネコヤマト便の着払い用紙をご用意して、お客様にはご負担なく羽毛布団をお預かりできるように準備を行いました。

到着した羽毛布団を広げてサイズを確認します。事前にお伺いしていたとおりダブルサイズ(横幅190cm)です。生地には穴や破れは発生していないためひとまず使用することは可能です。

ですが、羽毛布団ならではのふっくらとした膨らみとボリューム感がないことは気になります。かなりのっぺりとした質感になっているので、中に入っている羽毛のダメージ・劣化具合が心配だなというのが第一印象でした。

布団に付いているタグ。デンマークの国旗が見えるとおり、海外製造の羽毛布団でした。お客様にも確認済みです。

中身の羽毛の原産国など詳細を把握するための情報は残念ながら記載されていませんでしたが、海外製品に多い綿100%平織り生地が使用されていることは生地を触るだけで分かります。軽くてふんわりとした着心地を実現するべく作製された、ヨーロッパならではの純正羽毛布団です。

なんとなく、この羽毛布団を選ばれたお客様のキャラクターがイメージとして浮かんできます。

もう少し詳しく、羽毛布団の状態をチェックしていきます。

生地のところどころに汚れやシミが付着していました。ご使用中に付いてしまったのか、一緒に使っていたお子様の跡かもしれません。

布団自体のボリューム感はやはり弱っているようです。手で触ってみると羽毛の弾力性(モチモチとした質感)を感じることが難しくなっているといえます。

新品のときにはこれの倍以上の膨らみがあったのではないかと予想します。もっとふわふわで、もっと暖かくて。お客様の頭のなかには、大きく膨らむ羽毛布団の姿が思い出として残っているのかもしれません。

では、生地を開いて羽毛を取り出してみましょう。

中に入っている羽毛がどのような状態になっているのか、実際に見てみます。

取り出した羽毛がこちら。

結論から先に申し上げると、劣化がかなり進行していて状態としては悪いです。率直に言うとリフォームで再利用できるか問われるならば、しない方が良いと言わざるを得ない状態だと判断いたします。

取り出した羽毛を手作業で選別してみました。粉々に崩れて小さくなった羽毛やホコリが目につきます。特に、小さなファイバー状のホコリが多くなっている印象です。

長年使用するうち羽毛には少なからず圧迫や摩擦などによるダメージが加わります。その結果、大きかった羽毛もだんだんと摩耗していきながら小さくなり、細かいホコリのような状態に形を変えてしまうことがあります。

羽毛が小さくなってしまうと空気を含みながら大きく膨らむパワーも弱くなる。パワーが弱くなると布団のボリュームも半減していき、保温性もだんだんと弱くなる。のっぺりとした見た目の羽毛布団になってしまった原因はやはり羽毛の劣化・損傷による影響が大きいことが分かりました。

この現象はどのような羽毛布団でも起こりうることですので、10年・15年と使い続けるうちに劣化が進行していきます。どこでこの劣化を食い止めるかどうかは日頃のお手入れ(掛け布団カバーの交換・定期的な日干し)の有無と、丸洗いやリフォームといった定期メンテナンスのタイミングが非常に重要です。

メンテナンスのタイミングについてはご使用になるお客様の体質や寝室環境によって変化いたしますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。メンテナンスが必要かどうかのフォローをさせていただくことができます。

手作業で選別するなかで比較的良好そうに見える羽毛をいくつかピックアップしてみました。

まだ洗浄などは行っていないため、形はいびつです。汗や皮脂、汚れも付着しているため、羽毛が絡まって塊のようになっている部分もあります。

この部分は綺麗に洗浄して汚れを落としながらほぐすことで再利用できる可能性があります。もとのふわふわの状態を取り戻すことができるかもしれません。

ただ、過度な期待は禁物。やはり全体的にはホコリが多いため、再利用可能な羽毛がたくさん取れるとはいえないのです。

お客様の判断は・・・。

ここまでの状況はお客様に包み隠さずすべてお伝えいたしました。判断を任せられた寝具専門店のプロとして羽毛の劣化具合、見た目の状況、一般的な羽毛布団リフォームを行っても状態の回復が十分見込めないということをきちんとご説明いたしました。購入から30年が経過しているということも踏まえると、お買い替えを検討される方がよいということもはっきり伝えました。

ただ、ここでお客様を突き放すわけにはいきません。大切な羽毛布団、捨てるかどうかを本気で迷っているお客様のために、もしリフォームするならばこの方法ならできるというアイディアをお伝えいたしました。

リフォームの完成!

<リフォーム結果>

  • ダブルサイズ➡︎シングルサイズへのリフォーム
  • プレミアムダウンウォッシュ(布団を解体して取り出した羽毛を直接洗浄する)
  • 新品羽毛の補充:ホワイトダックダウン93%(ハンドセレクト)を800g補充
  • 新品生地:綿100%・80番手平織り(1㎡あたりの重さ:94g)
  • キルティング:たて6×よこ5マスキルト マチの高さ5cm
  • 羽毛充てん量:1.1kg

出来上がり参考価格:72,000円(税込)

リフォームの出来栄えがこちら。見た目にも羽毛の膨らみがしっかり確認できる仕上がり、触ってみると以前と全然違う柔らかさとしなやかな着心地を実現することができました。

ここまで来るにはお客様としっかりコミュニケーションを図り、本当にリフォームすべきかどうかをしっかり吟味いたしました。お客様にもじっくりご検討いただく時間を設けて、気になることや疑問点にはなんでもお答えできるように準備して、満足いく結果が出るようにできることを最大限やり尽くそうという思いで行動いたしました。

お預かりした羽毛布団を解体して中身を取り出し、綺麗に羽毛を洗浄してリフレッシュしたのですが、結果的には300gの羽毛を再利用したという形になります。もともと入っていた羽毛量は1,600gだったため、全体の約20%ほどをリフォームで再利用したという計算になります。

足りない羽毛は新品を補充してまかないました。800gの新品羽毛を追加して、羽毛布団としての保温性と膨らむパワーを復元させたという工程になります。

「お預かりした羽毛布団から300gしか再利用できなかった」という結果だけ見ると、かなり特殊な羽毛布団リフォームの事例だと思います。同業の寝具専門店の方やリフォーム業者の方からは「こんなリフォームするなら新品の羽毛布団に買い替えを勧めた方が絶対に良い」と言われてしまうかもしれません。

しかし、お客様の羽毛布団に対する想いと新しく出来上がる羽毛布団の着心地、両方を考えた場合、この方法が最良だと考えてお客様にご提案いたしました。

これから長く使い続けることだけを考えるならば新品への買い替えが一番良い方法だと思います。でも、毎日の睡眠時間をともにする羽毛布団ですので、愛着をもって接するという気持ちの側面も寝心地に大きく作用すると私は感じます。

どうせ使うなら気持ちの良い寝具、使ってほっと安心できる羽毛布団をお届けしたい。この想いをお客様にお伝えして、今回のリフォーム実施に至りました。

出来上がった羽毛布団をお届けしたその日にお客様からこんなメールをいただきました。

三浦綿業 三浦様

この度は大変お世話になりました。先程、羽毛布団が予定通り届きました。ありがとうございます。

軽くてふわっふわで、また丁寧な作りに感謝いたします。そう、求めていたのはこの風合い!素敵に仕上げてくださり感謝いたします

この冬は今の所、まださほど寒さ厳しくありませんでしたが、明日から大寒波がやってくる予報ですので、早速今晩より使わせていただきます。

能登地方で寒さに耐えている方々のことを考えますと身が引き締まる思いですが、身近な家族と大切に過ごしていくことで思いを繋げていきたいと考えます。

この度は本当にお世話になりました。心温まる文面にも三浦綿業様の姿勢が見えるようです。

まだまだ寒さ厳しい日が続きそうです。店長さんはじめスタッフの方々におかれましてもお体に気をつけてお過ごしください。

ありがとうございました。

リフォーム布団に大喜びの桐生市 Eより

リフォームの出来栄えに喜んでいただけて本当に嬉しいです。本当にありがとうございます!

ご家族皆さまと安心してゆっくりとおやすみいただくことができるように、当店でお仕立てした羽毛布団が活躍してくれると思います。ぜひこれからも末長くご愛用くださいませ。

羽毛布団を大切に想っていただけるE様のお気持ちが本当に暖かくて、寝具専門店として嬉しいです。

これからもぜひ気になることやご相談がございましたらお気軽にお声掛けくださいませ。

今後とも何卒よろしくお願いいたします!